就業規則改定、人事トラブル、補助金助成金の申請は、労務ドクターにご相談ください  

皆様 こんにちは!  特定社会保険労務士・中小企業診断士の鷲澤充代です。
今回から3回に渡り、解雇についてのお話をさせて戴きます。

先日こんな事案が有りました。
中途採用の新入社員の方の3ヶ月の試用期間も終わろうという頃、会社の常務さんから次のような問い合わせを戴きました。
『彼女に任せている仕事は、ダイレクトメールの発送や手紙の作成等、いわゆる一般事務の範囲ですがミスが多く、業務に支障が出ています。
さらに、周りの人間がそのフォローに入る為、二度手間になるばかりか、周りの人の業務の進捗にも差し障りが出る状況です。試用期間が終わるこの時期に辞めさせたいと思っているのですが。』とのお話でした。

中途採用で、前職もなかなか有名な企業。
『採用の面談時には、少しおっとりしているものの、しっかりと自分の意見も述べ、問題は特に感じなかった。』とのこと。
しかし、実際に業務に就いたところ、その性格も手伝ってなかなか進捗がはかどらない。
さらに、事務職としてはその適合性に決定的に問題を感じさせる≪ミスが多い≫という状況。

確かに、常務さんのその気持ちも良くわかります。

人は使ってみなければ、その人の本当の実力は解りません。
しかし、採用したのは会社の責任。その人を教育して会社に適合する人間へと変えていかなくてはなりません。
それが会社に課せられた責任でもあります。

たとえ試用期間であっても、14日を過ぎれば解雇予告手当が必要になる、つまり立派な『解雇』になってしまうのが現在の労働基準法の決まりごとです。
逆に、14日以内での解雇は30日前の解雇予告が必要ない即時解雇が認められていて、例え労働基準監督署へその従業員さんが駆け込んだとしても、あまり問題になる事はないと思われます。
『明日から来なくていい!』発言が出来るのは14日目までということです。

今回の場合、最初の契約を3ヶ月の試用期間として、別枠で期間を定める契約としていなかった事も、リスクヘッジが出来ていなかった点と言えます。

新人さんの場合、その人の真の実力や性格、自社の配属先の業務に向いているか否かの判断を数回の面接だけで判断するのは至難の業。
採用する時に解雇のリスクを減らす為の対応策を打っておく必要もあります。
つまり、試用期間を2ヶ月、または3ヶ月等と期間を定めて雇用契約書で期間を区切れば、その期間中に適合性を見極める事が可能となるわけです。
万一、その期間に見極めが出来なければ、就業規則に『試用期間の延長』の条項を入れる事で、さらにス3ヶ月程の見極め期間を伸ばす事が出来る様になります。

ただし、常識的に考えて、長すぎる期間を設定することは、当然に好ましくはありませんが・・・・
そこは、いわゆる、『社会通念上相当』と言える範囲に抑えて下さいね。
期間満了時までに『業務に不適合』との判断を下したならば、当然に期間満了による退職となり、解雇のリスクはなくなるわけです。
では、『期間満了』が使えない今回の場合はどうなったか?と申しますと・・・・・

本人の成績不振による業務不適合と判断される為、試用期間満了1週間前に退職勧奨という形での面談を行いました。
本人との話し合いの場では、会社の望んでいた従業員像、それに対する本人の試用期間中の業務内容と成績、それらを通じ本採用としては受け入れ難い旨をお話ししました。
退職勧奨というのは、解雇の様な会社側からの一方的な本人への『辞めて下さい!』との通告ではなく、本人合意をとる退職依頼の領域です。
従って退職届も書いてもらいますし、退職の合意書にも署名してもらいます。

本人の性格もあり、闘争的な雰囲気にはならず、穏やかに話の内容を聞いてくれました。
お話をして驚いたことは、あまり自分の行ってきたことについて、周りの方の迷惑になっているという認識が乏しい事でした。
会社として、今まで行ってきた本人に対しての指導や配慮、部内の一員としての本人責任についてお話をしたところ、『分りました』とのお返事を戴き、試用期間満了時での退職届の提出の約束を戴きました。

これを聞いた皆様の中には
『なんだ、何ら問題なく、簡単に解雇できるじゃない』・・・・と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、実はこの前段として、会社は過去3ヶ月の本人の業務の一覧を作り、いつどのような支障があったか、さらに部内の他の従業員のフォローアップの状況等をまとめてから、この面談に望みました。

人によっては強固に対抗的になられる方もあります。                            
説得をする為には過去の事実の積み重ねである資料に、とても重要な意味が有ります。
本来は、問題が生じた毎に、始末書や顛末書、反省文などに記載させて、今後の改善のための取り組み方を本人に書面で残してもらう事が大切です。
会社としての繰り返しの指導経緯があって、それでも改善されない場合に、初めて本人の『成績不良による解雇』が可能となるからです。
不当解雇とされた場合に、解雇の根拠を証明しなくてはいけないのが会社側の責任ですので・・・

今回はそれらの資料を積み重ねて来ていなかった為、事後的に用意をしました。
ただし、これらは3ヶ月という限られた期間であったからこそ出来たともいえます。
結果としては、これら資料を使う事もなく、本人の性格も相まって、いわゆる円満退職に至った事は、会社側に立つ社労士としては『ほっ』としたところでした。

今回の成績不良による解雇の場合 ≪普通解雇≫ の会社側の行うべき事をおさらいしましょう。
1.問題が生じる度に、指導をして反省文等の今後の本人意向を記載させた書面を残す事
2.解雇ではなく、本人の合意を取り付ける為に交渉を行う事 ≪退職勧奨≫
3.そして、最後の最後に『解雇』・・・30日前の解雇予告か、30日分の解雇予告手当が必要です。

次回も解雇について考えてみましょう。