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皆様 こんにちは!  特定社会保険労務士・中小企業診断士の鷲澤充代です。
前回に引き続き『解雇』に関してお話をさせて戴きます。
今回は会社業績が悪化した場合の『整理解雇』の事案です。

先日こんな事案が有りました。
2代目の社長さんが率いるある製造業でのことです。
会社は50期を超える歴史ある企業さん。先代の社長さんはカリスマ性があり、従業員に有無を言わさずに率いていくタイプだったそうです。
勿論、厳しい?言葉づかいも日常茶飯事ですが、その指導力は絶対的なもの。
率先して行動していく後姿を見せながら、従業員はその厳しい指導の中にも各々のやるべき事を理解して付いていく状況だったとのこと。一代目の創業社長さんに良くあるタイプの方だと思います。
時代の後押しもあり、業績は右肩上がりで成長し従業員数も順調に増加して行きました。

その先代の社長さんも年を重ね、次代の後継者に事業承継を行いました。それと同じころから外部環境の変化に対応が遅れたのか、業績が右肩下がりに・・・・
結果、今期迄8期連続の赤字体質となってしまいました。

勿論、新たな事業計画書を作成し、銀行のリスケジュールを受け、利息のみを支払うという状況。
現在は、中小企業緊急雇用安定助成金と言われる従業員の雇用継続のための厚生労働省の助成金を受けつつ、従業員に休業をさせています。
経費削減のためのコスト管理を行い、交際費を削減、広告宣伝費迄も削減し、従業員の上位役職者の給与も2割カット。
これらのコストカットと業務の改善を行い、効率的な企業運営を目指したのですが、業界自体のπは狭くなる一方で、
売り上げは低迷し、目に見える改善はなされません。
このままの状態が続けば、会社の先行きが非常に厳しい事は容易に判断できます。
現状では、従業員の人件費が固定費として非常に重くのしかかる状況になってしまっているのです。

会社としては、これ以上の体力は正直ありません。
資金繰りが逼迫し、何らかの手を打たなければ、会社自体が全ての従業員を抱えたまま、沈んでしまう事にもなりかねない、そのような状況です。

ここで、会社は苦渋の選択を行いました。
会社の存続の為に、敢えて数名の方に退職を願うこと。いわゆる整理解雇を行う事を決断しました。
それ以外に会社の未来はないと判断したのです。

整理解雇を行う場合には、注意すべき事があります。
人を切るのは聖域であり、つまり最後であるべき。それ以前に雇用存続の為にあらゆる手を打つことが求められます。いわゆる、≪整理解雇の4要素≫と言われているものです。
その4つの要素とは・・
1.人を辞めさせなければいけない程、事業が逼迫しているのか ≪人員整理の必要性≫
2.人を辞めさせる前にあらゆる手を打ったのか ≪解雇回避努力≫
3.その辞めさせる人を選んだ合理的な理由があるのか ≪被解雇者選定の合理性≫
4.従業員の理解を求める為に充分な対応を行ったか ≪解雇手続きの妥当性≫  です。

今回の事案の場合1の会社業績、及び2に関しては充分に会社として事前に手を打ってきていたため問題になる事はありませんでしたが、選んだ対象者A氏が、『会社の放漫経営に関して従業員すべてに詫びを入れてくれ』との条件を出してきました。
『自分は会社の犠牲となるので、書面で詫び状を残してくれ』との依頼です。

今回の解雇対象となったA氏は、弁が立つために、従来からその上長役職者も彼の管理には苦労をしていました。
ライン生産に従事しており、他のラインへの応援変更にも『腰痛があるから』という個人的な理由を押し通し、上長の指示に反論し、柔軟な人員の異動に対応をしてくれない方でした。
さらに、感情的になりしばしば他の人とも衝突することがある方。
会社側から見れば会社秩序を乱す人であり、対象者にその方を選んだ合理性は十分にあります。

しかも今回は会社の経営判断からライン自体が統廃合され、従来A氏が従事してきたラインが無くなったのです。
中小企業であれば、新たにその方を雇用する為の部署を設ける事は困難な事であり、3においても決して問題はないと思われます。

企業秩序を乱すという点から、繰り返し対峙して指導を行い、反省文などを書かせる懲戒処分を行っていれば≪整理解雇≫と共に≪普通解雇≫の要件での解雇を行う事が可能でしたが、私が関与した時には、長年そのような資料作りを行ってきていない状況でした。
代表者の方に『資料を作り、普通解雇の要件でも対応可能である事』を薦めましたが、今回は一本で行きたいとのはっきりとした意向が有り、最終的に整理解雇での対応となりました。

例え4要素の4つ目で、充分な対応を取るべきとしても、会社としてはA氏の依頼を飲むことは出来ません。
後々不当解雇での民事上の争いが生じた場合、その証拠として使われる可能性が高いからです。
何回かの交渉の後、退職勧奨 ≪条件を上積みする事で退職届を提出してもらう事≫ には結局応じなかったのですが、会社は上乗せ条件として誠意を示し、本来解雇の場合は支払わない有給休暇を買い取り、解雇予告手当とともに現金で手渡しました。
この時、本人の署名、捺印をした受領証はしっかりと貰う事が大切です。
解雇について解雇予告手当の支払いがなされていれば、例え元従業員に労働基準監督署へ駈け込まれても労働基準法上は法にのっとっている為、何らお咎めはありません。同時に本人が解雇を認めたことの証拠にもなりますから。

その方が辞めてやがて2ヶ月、まだ安心はできません。どんなに十分に対応したと思っていても、不当解雇での民事の争いが起こらないとは言い切れないのです。これが解雇のリスクと言えます。