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今回は企業秩序を乱す行為を行った従業員への『懲戒解雇』の事案を検討してみましょう。

先代から引き継いだ新社長の下、組織再編成を行い営業部の部長職に外部からの新たな役職者を採用しました。
もちろん、役職者ですから相応の報酬金額で契約を結びました。
会社としては、営業部の全権を新たな部長に託す決意での採用です。

営業は確かに、顧客との信頼関係を深める事が成績を伸ばす為には必須条件なのだと思います。しかし、信頼関係といっても業務上必要範囲内でのお話です。というのはこの営業部長、後々取引の相手先の趣味のゴルフの接待を過剰なまでに積極的に、かつ個人的に行っていたことが判明するのです。

役員会議の席で、それまで懸案であった営業部長の経費収支の実態についてメスが入れられました。営業部長の関わる取引先の売上回収状況の数値がブラックボックス化されていて社長すら十分に把握が出来ていない状況であることが取り上げられました。
当然に部長の説明責任が問われます。会社に対しての誠実義務違反が問われます。
高い報酬を支払い、結果を出す事を前提に採用した部長職です。採用時社長の営業部長に託す期待・想いには大きなものがありました。
しかし残念なことに期待にそぐわない結果となってしまっていたのです。

「懲戒解雇」の場合、「弁明の機会」と呼ばれる本人の話を聞く機会を必ず持たなければなりません。部長からは適切な返答がなされませんでした。会社はもはや信頼関係を維持することが不可能と考え、懲戒規定に照らし合わせ「懲戒解雇」を断行することに決めました。損害賠償規定も就業規則に記載されていた為に、把握できる数値については明らかにし、私人関係に絡む経費計上については本人に返済をさせる事にしました。

「懲戒解雇」の場合には、就業規則に退職金の不払い条項を記載してあれば、退職金を支給する義務を免れます。
規程類の整備を行う事によって、最悪の場合でもリスク回避できる部分はあります。
一般的に「懲戒解雇」を行う事は非常にハードルが高いと言われています。刑事上の罪に問われた場合であれば、条件としては可能ですが、実質的な損害を受けていない場合には慎重に行う必要があります。
裁判等になった場合、≪退職金を支払わない事について、社会通念として認められる程の不利益が、実質会社側にあったのか?≫に焦点が絞られることになるからです。

今回の場合も、過剰経費の要件だけでは難しかったと思われます。それに加え、使途不明という賠償問題に拡大する問題があったからこそ可能となったと言えます。
「懲戒解雇」を行う場合、就業規則に「懲戒委員会を開く」と記載してある場合には、これらの手続きを踏まないと解雇が認めらません。実態として行う事が管理されていないのであれば、会社側の手続き不備により『懲戒解雇』自体が無効となるかもしれません。
例え、本人に100%の責任があると考えられる場合であったとしても、解雇予告手当を支払う義務が会社側にはあります。
労働基準監督署からの解雇予告除外認定後でなければ解雇予告手当なしの即時解雇は出来ないからです。

まとめ・・1.≪懲戒解雇事由≫規定に懲戒解雇の行われる事由に該当する要件記載があるか 
2.≪休職命令≫規定で『本人に帰責理由がある場合には賃金は支払わない』の記載があるか 
3.≪懲戒委員会の開催≫を記載している場合、委員会は必ず行っているか 
4.≪退職金≫規定に、『懲戒解雇時の退職金不支給』の記載があるか
5.労働基準監督署の解雇予告除外認定を取らない場合、解雇予告手当を支払ったか

≪不当解雇≫と言われない様に、就業規則への記載と運用には充分注意を払いましょう。